その1、自分自身の生活を放棄している
普通の生活を営むことができない
ゴミ屋敷に住んでいる人の多くは、自分自身の生活そのものを放棄してしまっています。「自分自身を放棄する」などと聞くと、自殺を思い浮かべるかもしれませんが、それとは違います。専門的な言葉では「セルフネグレクト(自己放任)」と呼ばれているのですが、食事をしたり衛生面に気を配るなど、普通の生活を営むための当たり前の行動ができなくなってしまうのです。
「どうしても物が捨てられない」という強迫観念
セルフネグレクトの状態になってしまう原因には、OCD(Obsessive-Compulsive Disorder)という強迫性障害が潜んでいます。「何となく不安で、物を買ってしまう」「どうしても物が捨てられない」といった不安や強迫観念のようなものがあり、部屋の中にどんどん物を溜め込んでしまうのです。こうしてゴミを溜めてしまうことを「ホーディング(Hoarding)」と呼び、そういう癖を持っている人を「ホーダー(Hoarder)」と呼びます。
【その2】「実は脳の障害だった」という人も多い
アスペルガー症候群
「アスペルガー症候群」という言葉を、耳にしたことがあるかもしれません。これは自閉症のひとつで、「衝動にかられる」「我慢する」といった判断をする前頭葉に異常がある、脳の病気です。
ゴミ屋敷になってしまったとしても、本人に決して悪気があるわけではなく、どうしたら良いかがわからないのです。一度にいろいろなことができず、「洋服を脱いだらしまう」という基本的なことも、他のことと混ざってしまうとできなくなってしまいます。用が済んでしまった物には興味がなくなるので、脱ぎ終わった洋服には関心を持ちません。当然ながら良好な人間関係は築くことができず、周囲からは変わり者というレッテルを張られてしまうのです。
「話せばわかる」などと思って誰かが話し合いに臨んでも、とんちんかんな答えしか返すことはできないでしょう。つまり、ゴミ屋敷を何とかするために本人の理解や誠意を望むことは、不可能に近いということです。
もちろんアスペルガー症候群だからといって、周囲を困らせる面ばかりではありません。集中力があるなどの良い面もあるので、周りがアスペルガーを理解して上手にサポートしてあげられれば、ゴミ屋敷解決への糸口が見つかるかもしれません。
ADHD(注意欠陥・多動性障害)
「ADHD」という言葉も、聞いたことがある人は多いでしょう。何らかの理由で脳内の伝達物質がうまく分泌されず、精神的に混乱しやすい病気で、注意欠陥障害や多動性障害と呼ばれています。
ADHDの場合もアスペルガーと同じで、本人に悪気があるわけではありません。「ゴミ屋敷を何とかしてほしい」と頼んでも、なぜそう言われるのかを理解することは難しいでしょう。本人が自主的に片付けるのを待つのではなく、周囲が病気を理解してフォローしてあげることが大切です。
【その3】どうしても拭えない心の傷がある
親の虐待や愛情の欠如、大きな精神的ショックが原因に
ゴミ屋敷になってしまう人の中には、人生の中であまりにも大きなショックを経験し、心の傷が残ってしまっている人も少なくありません。
たとえば「親から虐待を受けた経験がある」「親に愛情を注いでもらえなかった」といった幼少期の心の傷がどうしても拭えずに、ホーディングをしてしまう人もいます。また、「突然家族に捨てられて一人ぼっちになった」というような、大きな精神的ショックを受けると、それが原因でホーダーになってしまうケースもあります。その一例をご紹介しましょう。
幼少期の虐待が原因でホーダーとなった、Aさんの場合
Aさんは幼少期に父親から虐待を受けた経験があり、ずっとその辛さを心に秘めて暮らしてきました。「早くこの家を出たい」という一心で結婚。2人の子どもの母親となりましたが、やがて夫婦仲が悪くなり、Aさんは2人の子どもを連れて家を飛び出しました。
親子3人で小さなアパートに引っ越したAさんでしたが、心の傷は癒されることがなく、物を捨てられないホーディングの症状が現れはじめました。スーパーから食品を買ってくれば容器が捨てられず、ゴミの日にゴミを出すこともできません。やがて家の中はゴミ袋が山となり、その上に洋服を脱ぎ散らかし、そのまた上にゴミを置くという状態です。狭いアパートの中は足の踏み場がなく、ドアを開けることも難しい状況になってしまいました。
「悪臭がする」と近所の住民が苦情に来ても、Aさんは片付けることができません。ついにゴミは家に入りきらなくなり、外に出すようになってしまったのです。
Aさんのように心の傷が原因でホーダーとなってしまう人の場合、その傷が癒されない限り、ゴミ屋敷の根本的な解決にはならないでしょう。ただ単にゴミを片付ければ済むという問題ではないことが、ゴミ屋敷対策の難しい点です。