2018年7月6日、相続法制を約40年ぶりに大幅に見直す改正民法が参院本会議で可決、成立しました。
相続分野の見直しは40年ぶりのこと。
前回、1980年には配偶者の法定相続分が3分の1から2分の1に引き上げられましたが、それ以来の相続制度の抜本改正となります。
この改正の主な目的は、「残された配偶者の老後の生活の安定化」だと言います。
高齢化が加速している現在、残された配偶者は長い年月を生きていかなくてはなりません。
また、これに合わせて「法務局における遺言書の保管等に関する法律」も成立しました。
この法律は、2022年春にも施行される予定です。円満な相続を迎えるために、ぜひ知っておきましょう。
配偶者居住権の創設
「配偶者居住権」とは、現在住んでいる家に、配偶者がそのまま住み続けることができるという権利です。
現状の制度では、被相続人が亡くなったあと、その配偶者が自宅(遺産分割の対象の建物)に住み続けるには、自宅の所有権を相続しなくてはなりませんでした。
すると、遺産分割で得られる他の財産(現金など)は、自宅の分、少なくなってしまいます。
そこで、この改正では、住宅の権利を「所有権」と「居住権」に分割しました。
残された配偶者は、この「居住権」を取得すれば、所有権が別の相続人や第三者に移ったとしても、そのまま自宅に住み続けることができるのです。
また、この「配偶者居住権」を利用すれば、自宅に住み続けられるだけでなく、生活資金も確保できます。
たとえば、被相続人の財産が1500万円の自宅と預貯金2500万円だとします。
この場合、現行の制度で配偶者が自宅の所有権を相続すると、預貯金は500万円しか得られないことになりますね。
しかし、配偶者居住権を行使すれば、所有権より低い割合で自宅に住み続けることができ、浮いた分は預貯金を相続できるのです。
また、配偶者が遺産分割の対象の建物に住んでいる場合、遺産分割が終了するまでは無償で住めるようにする「配偶者短期居住権」も新設されました。
配偶者短期居住権は、配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合に認められます。
これにより、配偶者は当面の居住権を確保することができます。
ただし、相続開始の時において、この居住建物に関して配偶者居住権を取得したときは,この限りではありません。
配偶者間における住居の贈与
配偶者が生前贈与や遺言などで譲り受けた住居は「遺産とみなさない」という意思表示があったとして、遺産分割の計算対象から除外します。
住居が特別受益と評価されないため、配偶者がその他の財産を受け取れないという事態が生じないのです。
この制度により、配偶者は住居を離れる必要がないだけではなく、他の財産の配分が増えるため、老後の生活を安定させることができます。
ただし、結婚期間が20年以上の夫婦に限定されるので注意が必要です。
金融機関の仮払い制度を創設
現行の制度では、被相続人の遺産は、亡くなった時点で相続人全員によって共有している状態となるため、銀行など金融機関は、遺産分割協議が成立するまで、原則として口座を凍結し、被相続人の預貯金の払戻や名義変更に応じません。
結果、被相続人が急逝した場合など、葬儀代や、残された配偶者の生活費など、必要なお金が引き出せず、困る人が多かったのです。
そのために、いざという時に備えて、被相続人の生前から家族信託などを取り決めることが必要でした。
そこで、今回の民法改正では、遺産分割協議が終わる前でも生活費や葬儀費用の支払いなどのために被相続人の預貯金を金融機関から引き出しやすくする「仮払制度」を創設しました。
これにより、生活資金や葬儀代などを被相続人の預貯金から支払うことが可能となります。
相続の不公平感の是正
この改正では、被相続人の生前、介護や看病で貢献した親族に考慮した制度が創設されます。
たとえば息子の妻などが被相続人の介護や看病をするケースは多々あります。
また、6親等以内の親族(いとこの孫ら)以内の血族と、3親等(姪や甥)以内の配偶者が介護などに尽力するというケースもあるでしょう。
しかし、これらの人々は法定相続人ではないため、現行法では被相続人による遺言がない限り、どんなに介護や看病を一所懸命行っても遺産分割という形での報酬は一切受けることができませんでした。
新たな改正案では、法定相続人(被相続人の配偶者、子、親、兄弟姉妹)ではない親族でも、被相続人の介護や看病に貢献した場合は金銭を請求できるようになります。
ただし、親族のみが対象となるので、家政婦や近所の人、事実婚や内縁など、戸籍上の親族でない人は請求できません。
これらの人に相続させたい場合は、従来通り被相続人の遺言が必要となります。
「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立①
新しく、自筆証書遺言を法務局で保管できる制度が創設されました。
これまで、被相続人が作成した自筆証書遺言は、自宅で保管するか弁護士に預かってもらうことしかできませんでした。
自筆証書遺言は、遺言書の存在が相続から何年も経過した後に発見されて遺産分割協議がやり直しになったり、相続人が勝手に破棄したり、また偽造したり、そもそも紛失してしまったりするなど、遺言の内容が執行されない危険性が高く、トラブルに発展するケースが非常に多いものでした。
そこで、このような事態を避けるため、法務局が自筆証書遺言を保管する制度を設けます。
作成した自筆証書遺言を法務局で保管してもらうことにより、紛失や偽造など、遺言書に関するリスクは少なくなると考えられます。
また、公的機関である全国の法務局で保管すれば、相続人が遺言の有無をすぐに調べられるようになります。
「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立②
これまで、自筆証書遺言は家庭裁判所における「検認」(民法1004条)が必要でしたが、これについても見直しされます。
自宅で自筆証書遺言が見つかった場合、今までは法定相続人全員の立ち会いのもと、家庭裁判所で「検認」という手続きが必要でした。
検認とは、遺言書の発見者や保管者が家庭裁判所に遺言書を提出し、法定相続人などの立会いのもと遺言書を開封し、遺言書の内容を確認することです。
これまでは、この手続きをしないと遺言書の内容を確認することができませんでした。
しかし、新たな改正案では検認手続きが不要となるため、速やかな遺言の執行、相続手続きの時間短縮が期待できます。
財産目録のパソコン作成が可能に
自筆証書遺言は手書きで作成しなくてはならないので、財産目録についても手書きしなくてはなりませんでした。
財産目録とは、被相続人の一覧としてまとめたものです。
預貯金や不動産などプラスの財産だけでなく、借金や住宅ローンなどのマイナスの財産も対象となります。
財産目録の作成は義務ではないため、必ずしも作成しなければならないわけではありませんが、スムーズな相続のためには必要な書類です。
とはいえ、目録を手書きするのは非常に手間がかかる場合があります。
そのため、改正案では、財産目録の部分のみは手書きでなくてもよく、パソコンなどで作成できるようになります。
改正法の施行はいつから?
改正民法は、それぞれ次の日から施行されます。
配偶者居住権
公布の日から2年を超えない範囲内において政令で定める日
自筆証書遺言の方式緩和
公布の日から6か月を経過した日から
婚姻20年以上の夫婦の優遇策、仮払い制度など
公布の日から1年を超えない範囲内において政令で定める日
法律は、その成立後、後議院の議長から内閣を経由して奏上された日から30日以内に公布されます。
法律の公布にあたっては、公布のための閣議決定を経た上、官報に掲載されます。
官報には、公布された法律について「法令のあらまし」が掲載されますので、目を通しておくとよいでしょう。
官報はインターネットで閲覧することができます。
円満な相続を迎えるために・・・
いかがでしょうか? この改正によって、相続はガラリと変わります。
内容を見ると、残された配偶者に対してかなり手厚くなっていることがわかるのではないでしょうか。
これは、少子高齢化社会が背景にあり、高齢者の老後の生活安定を見据えての改正と考えられます。
ぜひ正しく理解して、円満な相続を迎えましょう。